節季じまい 【中編】
2014年4月15日
今日は、昨日の『節季じまい【前編】』からの続き。
町人の発言からして、このお話の舞台は江戸時代の大坂と思いきや、そうではなし。文中に出てくる「中京」「氏神稲荷大明神」「堀川」という地名などから察するに、どうやら京都のようだ。
大晦日に借金取りを逃げ隠れせず追い払おうとする男は、56歳だ。これは自分で発言している。彼が用いた撃退法は、こうである。
借金取りたちを前に、庭の片隅に古むしろを敷いて包丁を研ぎ出す。そして、独り言をつぶやくのだ。
「ああ、金のなる木がほしい。でも、蒔かぬ種は生えぬものよ。きれいに錆を落としたとて、ごまめ一匹切ることもないが、それはそれ、急に腹立たしいことがあったなら、この腹かっさばくくらいの役には立つだろうよ。齢(よわい)五十六、惜しい命でなし。」
狐が憑いたような目つきで切っ先を眺めながら、包丁を振り回すと、そこに一羽の鶏がコケッコと現れる。
「おまえを死出の道連れにしてやるぞ。えい!」
鳥の細首を打ち落としたものだから、借金取りたちは肝をつぶす。こんな無分別な相手に言葉尻をとられてはたまらないと、一人また一人、男の家をあとにする。しめしめ、これで片付いたと思ったところに、これまで腰を掛けていた男が立ち上がる。まるで、一人になるのを待っていたかのようだ。見れば、歳は十八・九のなよなよした体つきの若者だ。が、見かけによらず芯が強そうで、堀川にある材木屋の丁稚である。
「さて、下手な小芝居は終わりましたかな。手前どもの代金を頂戴して帰りましょう。」
「芝居とは何だ、小僧!みんな納得して帰ったぞ。」
「いやいや、この忙しい大晦日に何の役にも立たぬ狂言自殺だとお見受けしました。」
「余計な詮索を。」
「とにかく、受け取らねば帰りません。」
「何を?」
「代金に決まっております。」
「誰が受け取ると?」
さてさて、この丁稚、いかにしてこの不埒な相手から金を取り立てようとするのか。長くなりそうなので、この続きは休み明けのことに...。
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