二、何で売買されてんねん!!
ピン、ポーン。「田中」さんの家のインターホンを押すAさん。
"ハ~イ"
かん高い声で応答する「田中」なる女性。
"あの~、ちょっとお話ししたいことがございまして"
セールスマンと思ったのか「田中」さん、少しトーンが落ちて、
"何のご用件でしょうか?"
"い、いや、あの、それがちょっと込み入ったお話でございまして・・・"
沈黙が続き、埒(らち)が明かないと思ったのか、「田中」さん、しぶしぶ外に出てくる。
"あの~、何か?"
"実はこの土地、私の物なんですが・・・"
Aさんの唐突かつ意表をつく発言に、「田中」さん、あっけにとられて
"はあ?"
向かいの奥さん同様、これまた頭のおかしな人が来たと言わんばかりの顔つきだ。でも、前にいる発言者が意外と沈着だと見て取るや、逆に恐怖感を覚えたのか、すぐさま家の中に戻ると、今度は主人とおぼしき男性と二人で出てくる。
出て来た「田中」の男性が言う。
"何なんですかあなたは!警察を呼びますよ!"
幾分、冷静さを取り戻しているAさん、今度はゆっくりと事情を話し出す。
この土地は17年ほど前に、親から相続した土地であること。自分が転勤族でずっと遊休土地にしていたこと。6年ほど前は更地であったこと。久しぶりに土地を見に来たら家が建っていて、しかも人が住んでいること、など。
一方的に話すAさんに対して、「田中」の男性、だんだん腹が立ってきた。それだけ言うならと、一旦家に入り、戻ってきた時には封筒を手にしている。
その中から、「登記済権利証書」と書かれた書類を取り出して、
"ほれ、ご覧なさい"
「売渡証書」と書かれた書類に自分が買主になっていること、法務局の登記済印が押されていることを指し示しながら、やや語気を荒げて説明する。
それ見ろと言いたげな「田中」さん、案外Aさんが動揺していないので、お次はこれだと封筒から法務局発行の不動産登記簿謄本を取り出す。
"どうです、この土地と建物の所有者は私、田中になってるでしょ!"
"ちょっと拝見"
登記簿謄本を田中さんから借りて、じっと見つめるAさん。今の所有者は確かに田中さんになっている。「え~と、その前が・・・、あれ?Bさん?何で?あった!俺や!!」
平成○○年○○月○○日相続 所有者 A
平成○○年○○月○○日売買 所有者 B
平成○○年○○月○○日売買 所有者 田中
" え~、何で! 何で売買されてんねん!! "
思わず声を出してしまったAさん、にわかには今の事情が読めなかったのである。
※ジャンル:不動産の「地面師」は、連載形式としています。よって、今日のところはこれで止(よ)す...。
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2010年6月29日


