二一、いざ、広島!
"あと、こんなことも考えなあかん場合があるから、よう頭に叩きこんどけや。"
そう英二に言うと、池田は話を続けた。
"例えばや、Aが相続登記した時の住所が、ここに出てくる横山区の漫画町やった場合や。この場合は、住民票、その除票、戸籍付票の請求を横山区役所でトライしてみる。ダメな場合は、Aの父親の登記上の住所である橋本区の住所で同じようにトライや。
それと、今回は橋本区特別町1丁目24番を本籍地とした戸籍付票が取れたわけやが、これは住居表示実施後の町名であり、番号であるわけや。これで取られへんときは、住居表示実施前はどんな町名で、どんな番号やったかを調べてから、たどっていくという手も残っとる。
仮に、住居表示である「特別町1丁目24番8号」の住所が、住居表示実施前は「半端町35番地」やったとしよう。ここに、もともと本籍があって町名自体が後で変わったんなら、役所の方で本籍地の町名を勝手に変えよる。町名はいっしょで単に番号だけが変わったんならそのままやろな。注意せなあかんのは、「半端町35番地」の状態の時に転籍したんなら、そのままの記録が残るということや。それで除籍抄本を取るという手もあるんや。除籍謄抄本は、住民票の除票と違って50年くらいは遡って取れる。
それで、現在の本籍地までたどり着ける。たどり着いたら、戸籍付票が取れる。付票が取れたら、現住所がわかるという寸法や。これも裁判目的で現住所をつきとめるための方策や言うて請求したら、役所の方も出しよるやろ。
ええか、英二。大事なんは、請求するしかた、頼み方、頼まれた役所の人間の能力や意欲によって、取れるモンも取られへんときがあるいうこっちゃ。それに、わしらは表には出られへんから、他人にそういうことをしこまなあかんねやで。
まあ、ちょっと難しいかもしれんけど、おまえなりにもう一回、よう考えてみいや。わからんことがあったら、また教えたるさかい。"
そう池田に言われた英二は、わからんことだらけだと思いながら、"はい"とだけ言った。
"さあ英二、現住所がわかったからには、次の作戦に移るでえ。ただ、その前にAの戸籍謄本を取っときたい。Aの家族構成を把握しとかなあかんからな。本籍地はわかってるんや。おまえでも簡単に取れる。歳もそんなに離れてないから怪しまれもせんやろ。前も言うた通り、申請書の筆跡は極端に変えとくんやで。"
"アニキ、行くのが面倒で言うわけやないんでっけど、あの男に戸籍付票と戸籍謄本をいっしょに取らせへんかったんは、何ででっか?"
英二の素朴な疑問に池田が答えた。
"おまえ、なかなかエエとこ見てるやないか。それはやな、裁判目的で現住所が知りたい言うて付票を請求して出しよったんや。その他に戸籍謄本くれ言うのんは、おかしいやろが。"
英二は翌日、橋本区役所に行き、戸籍謄本を持って帰ってきた。
"アニキ、簡単に取れましたわ。Aのヤツ4人家族みたいでんな。"
そう言って、英二は池田に戸籍謄本を手渡した。
"よっしゃ英二、準備は整った。いざ、広島!や。こないだの男も必要や。向こうで落ち合えるように言うとってくれるか。"
"へい、アニキ。"
英二の声はかん高かった。まるで、今から遠足にでも出かける子どものように。
※ジャンル:不動産の「地面師」は、連載形式としています。通読されたい方は、ジャンル:不動産の過去の記事をお探し下さい。この続きは折を見て、断続的に掲載していくつもりですので、それまではしばしお待ちを...。
【 不許無断複製 禁無断転載 】
2011年4月 2日


